企業が自社の非公開ソースコードをAI評価データとして販売し始めた

Specific Labsは消費者向けプロダクト企業とフィンテック基盤に対価を支払い、リポジトリへのアクセス権を取得した。スクレイピングでは作れない評価資産だ

|5分で読める0
Production source code of the kind Specific Labs now licenses from operating businesses to evaluate AI coding agents
Production source code of the kind Specific Labs now licenses from operating businesses to evaluate AI coding agents

ユーザー20万人超の消費者向けプロダクト企業と、銀行取引明細10万件以上を処理してきたフィンテック基盤が、自社の非公開リポジトリをめぐって異例の判断を下した。評価専門企業にライセンスしたのだ。Y Combinator出資のSpecific Labsはこれらのコードベースを束ねてReal-SWEを構築し、その過程で独自コードはAI業界が対価を払って買う商品になった。

要点

  • Specific Labsはオープンソースプロジェクトを収集するのではなく、実際に営業している企業の本番リポジトリをライセンスし、どのモデルも事前学習で読んだはずのない評価素材を確保した。
  • 同社は、実企業内部のトークンの99%がフロンティアモデルから見えていないと推定する。ライセンス市場が成り立つ理由はこの供給の空白にある。
  • 検証器は採点時にのみ注入され、各コードベースに既存のテストスイートから取られる。つまりライセンス契約はコードだけでなくテストまで含める必要がある。

採算の構図は言葉にすれば単純だ。公開された評価素材には賞味期限がある。公開されたものはいずれ学習コーパスに入り、その時点で暗記と推論を区別できなくなるからだ。非公開コードにはその劣化がない。代わりに持ち主がいて、手に入れるにはクロールではなく交渉が要る。

ライセンスするコードベースに必要なもの

ソースへのアクセス権だけでは評価は作れない。Specific Labsは各エージェントを隔離されたサンドボックスで動かし、タスクをHarbor形式で保存し、採点時に検証器を注入する。この検証器はコードベースに元からあったテストを参考にしたものか、そのまま流用したものだ。使えるライセンスとは、リポジトリとテストスイート、そしてタスクを現実的にするイシュー履歴までを対象にしたものになる。

そうして生まれるタスクは、整えられたパズルとは似ても似つかない。ひとつは請求書を企業固有の税モードに通す課題で、税務当局プロバイダーを経由する仕向地基準の価格設定まで含む。別のひとつは、商品と利用量の所有権をサービスから顧客へ移しつつ、既存の読み取り動作を壊さない課題だ。三つめは、有効化されたAWSリージョンをすべて洗い出してブロックストレージの在庫を走査しながら、ひとつのリージョンの失敗で全体が崩れないようにする課題である。

企業ごとに固有のルールとコードの書き方がある。エージェントはその慣習を理解し、すでにあるものとかみ合う変更を出さなければならない。

作業範囲もそこから決まる。Real-SWEの解法が触れるファイルは中央値11個で、FrontierCodeやDeepSWEといった公開スイートの中央値6個のほぼ倍だ。事業の回り方を変える修正が、ひとつのサービス内に収まることはめったにない。

ライセンスデータが明らかにしたこと

最初の結果は、ライセンスした側にも示せる材料を与えた。Claude Code上で動くClaude Fable 5.1が38.8%で首位に立ち、Codex CLIのGPT-6 Astraが33.8%、Gemini CLIのGemini 3.8 Flashが31.2%で続いた。解決率はタスクごとに独立実行8回を平均したpass@1で、95%信頼区間とともに公表されている。

同様の契約を検討する側が押さえておくべき点がある。このスコアはモデル単体ではなくハーネスに紐づく。Real-SWEは各システムを純正ツールと組み合わせて評価するが、企業のエンジニアの働き方がそうだからだ。結局ライセンスしたリポジトリが測っているのは、モデルとスキャフォールド、IDEの慣習をまとめたワークフロー全体になる。同じ重みでも別のスキャフォールドに載せれば、結果はまったく違う場所に着地しうる。

この市場が広がるとみられる理由

AIコーディングアシスタントを買う側には、リーダーボードの数字が自社システムでも通用するか確かめる手立てが乏しく、売る側にはそれを確かめるテストを作る動機がない。非公開コードに対価を払う独立した第三者はその間に位置する。公開ベンチマークが混み合うほど、その位置の価値は上がる。AnthropicもOpenAIもGoogleもこのリーダーボードにモデルを載せているが、背後のデータを握っているところはない。

留保すべき点もはっきりしている。10タスクは小さな標本で、この試み自体が公開ベンチマークは汚染で水増しされていると証明するわけではない。ライセンス方式は、契約を負担できる側に評価の力を集中させもする。外部から中身を検分できないベンチマークは、公開データセットとは別種の信頼を求める。手法だけ公開して結果を出さなかった最近の別のエージェントベンチマークにも、同じ緊張が見える。

よくある質問

企業はなぜ非公開ソースコードをライセンスするのか

非公開コードは一度も公開されていないというまさにその理由で、評価企業にとって価値がある。モデルの学習データに流入しようがないからだ。評価企業が対価を払う対象はその希少性であり、ライセンスした側はオープンソース化せずに報酬を得る。

Real-SWEはライセンスしたコードを公開するのか

公開しない。コードと参照解法を非公開に保つことがこのベンチマークの前提だ。Specific Labsはリポジトリではなく、タスクの説明とスコアを公開している。

Real-SWEで最も高いスコアを出したモデルは

Claude Codeを通したClaude Fable 5.1が38.8%で1位、Codex CLIのGPT-6 Astraが33.8%、Gemini CLIのGemini 3.8 Flashが31.2%と続いた。テストしたすべてのシステムが、タスクの過半を解けずに終わっている。

この記事への反応を残してください!

SJ

ディスカッション

ログインして投稿
読み込み中...

関連記事

OpenAI「自社モデルがJalapeñoの設計を9か月に短縮した」
Tech & Business

OpenAI「自社モデルがJalapeñoの設計を9か月に短縮した」

AIが書いたカーネルがOpenAIの専門家による実装を最大1.8倍上回った。JalapeñoのInferenceXベンチマーク結果が初公開された。

Seung Jung23 日前
AIエージェントがRubyGemsに2000超のパッケージを投下、新規登録は4日間停止
Developer Tools

AIエージェントがRubyGemsに2000超のパッケージを投下、新規登録は4日間停止

フォレンジック報告が5月のGemStufferキャンペーンを再構成した。AIエージェントが2000超のgemを投下し、RubyGemsは新規登録を4日間凍結した。

Seung Jung6 日前
ShopifyがTailwind Labsを買収、AIコーディングツールが崩したフレームワーク事業
Developer Tools

ShopifyがTailwind Labsを買収、AIコーディングツールが崩したフレームワーク事業

ShopifyがTailwind CSSの開発元Tailwind Labsを買収した。フレームワークはMITライセンスを維持する一方、Tailwind Plusとui.shは新規申し込みを停止する。

Seung Jung6 日前
LLMのバグ修正は、直した数の10倍も動くコードを壊していた
Developer Tools

LLMのバグ修正は、直した数の10倍も動くコードを壊していた

arXivの研究で、LLM修復ループが正しいプログラムを壊す率は0.261、バグを直す率は0.023だった。著者らはその挙動を駆動する内部方向まで突き止めた。

Seung Jung5 日前
GitHubのHydraFusionはモデルを選ばない。ワークフローを組み立てる
Developer Tools

GitHubのHydraFusionはモデルを選ばない。ワークフローを組み立てる

GitHubのProject HydraFusionは、Copilotのコーディング要求ごとに複数モデルの実行計画を組む。単一モデルの手軽さと引き換えに、コストを大幅に下げた。

Seung Jung5 日前
OpenAI、話しながら聞く音声モデルを1分5セントで開発者に開放
Developer Tools

OpenAI、話しながら聞く音声モデルを1分5セントで開発者に開放

OpenAIの全二重音声モデルGPT-Live-1が1分0.05ドルでAPI提供されました。Tau3ベンチマークで86.2%を記録し、45.7%だった従来モデルを大きく上回ります。

Seung Jung7 日前