OpenAIが9月17日、法律事務所とリーガルテック企業に向けた「Astra for Law」を投入した。GPT-6 Astraを法務業務向けに構成した製品だ。同社はAstra for Lawの発表で、新たに学習したモデルはないと明言している。実際に提供されるのは2億3000万を超えるURLを収めた法務検索インデックスと、ドメイン固有の指示、応答設定、そして既存のフロンティアモデルを包むツール群である。
要点
- Vals AIが運営するLegal Research Benchの非公開検証セット200問で、Astra for Lawは総合正答率54%を記録した。一般的なウェブ検索を用いたGPT-6 Astraは38.7%にとどまり、差は15.3ポイント、相対では40%の改善にあたる。
- 法務検索インデックスは米国の判例法、制定法、規則、裁判所規則、行政決定を網羅し、非営利団体Free Law ProjectのCourtListenerを基盤としている。
- 利用はAm Law 200の事務所を対象としたTrusted Accessプログラム経由で開かれる。APIではデータを保持せず、ChatGPT Enterpriseでの利用は人間によるレビューの対象外となる。
ベンチマークの数字が実際に示すもの
今回の比較は同じモデル同士の対決である。双方とも推論の強度を最大に設定した条件で、法務インデックスを備えた構成は54%の設問で正答判定を通過し、通常のウェブ検索を使った同一モデルは38.7%にとどまった。判例に関する設問では参照判例を24%多く提示し、同じ推論強度で正しい判決文中の関連箇所を最大54%多く取得した。回答の長さは平均で約2倍になった。
この構図は有用であると同時に限界も明確だ。オープンなウェブ検索に対する根拠付き検索拡張の価値を切り出して示す点では誠実な測定といえる。ただしHarveyやLegora、CoCounselと同じベンチマークで比べた場合にどうなるかは何も語らない。正答率54%とは、リサーチ回答のおよそ2件に1件が評価基準を満たさなかったという意味でもある。
インデックスこそが製品である理由
OpenAIが6月に法務製品の責任者として迎えたIroncladの共同創業者ジェイソン・ベーミグ氏は、LawSitesが伝えた記者ブリーフィングで、これは新モデルではなくモデルの構成だと線を引いた。法務文書作成向けのドメイン指示、回答の長さといった制御、そして今後拡張していく法務専用ツールが中核だという。製品を率いるエンジニアのシャーウィン・ウー氏は、障害を理由とする差別訴訟を抱える病院の却下申立書の作成、拙速な資産売却に対する株主の異議申し立て、販売契約をめぐる紛争の処理を実演した。
戦略上の要点は、事務所やベンダーが法務コーパスを自前で構築し維持する必要がなくなることにある。リーガルAIのスタートアップが差別化の拠り所としてきた層に正面から踏み込んだ形だ。しかもその当のスタートアップが顧客になる。HarveyとLegoraは、自分たちの検索層をプラットフォームの基本機能として提供する製品のAPI顧客として名を連ねている。
プラグイン、パートナー、その上に築く事務所
OpenAIは投入にあわせてThomson Reuters、Harvey、Legora、iManageなどによるパートナープラグイン26種と、リーガルエンジニアが開発したコミュニティプラグイン9種を公開した。同社ではなく法務分野のパワーユーザーが作ったとする独自スキル47種も含まれる。ChatGPT for Wordも正式提供となり、実際の法務文書作成が行われる文書の中で校正や修正提案を受けられるようになった。
すでに複数の事務所が、OpenAIのエンジニアを常駐させてChatGPT Enterprise上にシステムを構築している。Sullivan & Cromwellは自社の交渉プレイブックと先例に基づく契約分析ツールを、Ropes & Grayは所属弁護士のデータルームの扱い方に合わせたM&Aデューデリジェンスツールを、CooleyはIPO準備向けの資本市場システムを作った。Latham & Watkinsは情報アクセス権限、倫理的遮断壁、事務所としての監督体制についてOpenAIと協業している。
ベンチマークと併せて読むと、プラグインの顔ぶれはOpenAIが残る価値をどこに見ているかを示している。検索はプラットフォーム機能としてコモディティ化され、案件のコンテキスト、文書管理、請求連携はパートナーの領分として残された。より優れた法務コーパスを差別化要因としてきたベンダーは、その差別化をモデル提供者が立っていない場所へ移さなければならない。
事務所が実際に交渉する部分
データを保持しないという約束に例外はあるのかと問われたベーミグ氏は、その一文は約30ページにわたるアクセス契約を要約したものであり、文面の印象より複雑だが必要は満たしていると答えた。これを検討する法務責任者にとっては、この回答こそが本質だ。専門職としての責任義務は製品ページではなく契約に紐づくからである。事務所は製品ページを根拠に守秘義務を果たしたとは言えず、例外条項はその30ページの中にある。
競争の背景にあるのは、先行したAnthropicのClaude for Legalだ。パターンはすでに見慣れたものになった。フロンティアモデルを土台に、厳選したコーパスとドメイン指示を組み合わせ、垂直型の製品として売る。OpenAIは金融でもChatGPTのウォール街向け構成を投入し、同じ手を打っている。次に来る数本も同じ形で登場するとみられる。高くつく部分がもはやモデルではなくなったからだ。
よくある質問
Astra for LawはOpenAIの新しいモデルですか?
いいえ。OpenAIはGPT-6 Astraの構成だと説明しています。既存モデルに法務専用の検索インデックス、ドメイン固有の指示、法務向けツールを組み合わせたものです。ベーミグ氏は記者ブリーフィングでこの区別を明確にしました。
現時点で誰がAstra for Lawを使えますか?
HarveyやLegoraを含むAPI顧客に提供される予定で、Am Law 200の事務所を対象としたTrusted Accessプログラムを通じて選ばれた事務所にも開かれます。対象事務所ではChatGPTとCodexのモデル選択に表示されます。個人の実務家が広く使える状態ではありません。
法務検索インデックスはどこから来ていますか?
米国の判例法、制定法、規則、裁判所規則、行政決定にわたる2億3000万超のURLで構成され、情報源は継続的に追加されます。OpenAIは非営利団体Free Law Projectが運営する調査ライブラリCourtListenerを活用したとしています。






